次は戦場で会いましょう

かんがえたことを書き記す。

完璧を求めずとも

わたしはこのブログで、彼氏さんの悪いところはほとんど書いていない。それは彼氏さんが、悪いところなど何一つないパーフェクト人間だからかと言われたら、そうではないと思う。わたしが彼の悪口を書こうとしていないからかと言われても、そうではないと思う。

ひとつ話をしよう。
先日、彼氏さんと家具を探すために買い物に出掛けた。彼氏さんは車を持っていないため、バスで行った。
その日はすでに家電やネットなど、色々見回った後なので夕暮れになっていて、ふたりともへとへとになっていた。疲れたなあ、疲れたねえ、とお互いにぼやきながら、薄暗い夕焼けの下でバス待ちのベンチに座っていた。
1時間に1本しか通らないバスを、その日は20分待って、ICカードを通して乗った。太陽が照りつけた後の体に、クーラーの冷たい風が吹き抜ける。
地元を軽快に走るバス。懐かしい景色を見ながら、わたしは懐かしい話をした。小学校の話。昔住んでいたアパートの話。


「この景色、僕の地元に似てるかも」
「本当?そしたら、いつかそっちの地元に行ってみたいです。正月とかに」


ゆるやかな会話を続けて、バスは目的地にたどり着く。降りたとき、もう外は真っ暗になっていた。少し欠けた月が空に浮かんでいて、車が道路を横切る音は昼よりどこか怖く聞こえる。
家具のお店は、バスから降りても看板が見えないくらい遠い場所にあった。疲れた足に鞭をうって、歩を進める。
地元は博多じゃないけれど、博多とんこつラーメンのお店の前を横切った。


「看板、新しいですね。ラーメン食べたくなってきちゃった」
「そうだね、おなかすいた……」


その日はふたりとも忙しくてお昼を食べていなかった。疲れで空腹を埋めていたような状態だった。たまに横からお腹が鳴る音がする。とても良いとは言えないコンディションの中、街灯より車のヘッドライトの明かりが頼りになるような暗闇の道を歩く。
5分歩いても看板は見えない。わたしは何気なく空を見上げた。


「月、綺麗ですね。隣に星が見えるけど、あれ以外見えないな」
「ほんとだ。あれ惑星かもしれないね。木星あたりかな」
木星?あんな月の近くに見えるんですか」


視界の端には高速道路が見えていた。太い車道が通った大通りの脇道を、並んで歩く。


木星って、望遠鏡で見ると他の星も見えるんだよ」
「え!そうなんですか。囲まれてるような感じなんですか?」
「囲んでるっていうか、並んで見えるね」


学生の時、天体クラブ的なものに所属していた彼氏さんの星の知識を聞きながら、歩く。体も頭も疲れていて、お腹も空いていたけれど、なんだか心は楽しかった。
結局、15分以上歩いて、ようやくお店に到着した。色々見たあと、実際に買うのはまた日を改めることにして、帰りも15分以上歩いた。バスの時間が近かったので、残念ながらとんこつラーメンは食べられなかった。


この日、やろうと思えば、車を走らせてふたりの体を疲れさせないことも出来た。そうすれば、時間も遅くなくて済んだし、バスの時間を気にすることなく寄り道してラーメンを食べることも出来たかもしれない。
完璧じゃない。でも、車で来てたら、わたしは木星の話を聞くことは出来なかった。バスで戻った後食べたおいしいハンバーグを知らないまま過ごしていた。


後悔することはいくらでも出来たけど、楽しいことはそれ以上にあった。だからわたしは、この日は楽しかったと、笑顔で言えるのだ。


帰りのバスで、こんな話になった。
「引っ越して料理食べれるの、楽しみだな。また牛トマ(平野レミさんレシピで一番有名な、牛肉のトマト炒め)食べたい、あれは良いね」
「出来る限り料理は頑張ります。でも、疲れてごはん出来ない日とかあるかもしれないので、それはごめんなさい……」
「じゃあ、そういう日は、うどんにしよう。外食にしても良いし、さっきのラーメンとか食べに行こう。それで良いよ」


自宅でご飯は食べたいけど、無理強いはしない、そういうところに救われる思いでした。


「あ、でも、料理するならお味噌汁とかの汁物は絶対作りたいです。お弁当にも付けたいですし」 
「一汁三菜ってやつ?」
「はい。汁物あると、満足感が違いますから。暖かい汁物があると同じ量でも満足感が違うって、前に新聞で読みました。けど毎日三菜も作れるかな、二菜で精一杯かも」
「僕二菜で良いよ。一菜でも良いくらい。お弁当もそれくらいで良いかもね」


今振り返ると、彼もわたしに完璧を求めていないのだと、よく分かります。そういう人だから、わたしはこの人を安心して選べたのだと思えました。
完璧を求めずとも、安心出来る。完璧を求めずとも、楽しむことが出来る。完璧を求めずとも、愛することが出来る。
それは、忘れないようにしたいと思います。これからもずっと。


ここまで読んでいただきありがとうございます。
完璧を求めないからこそ、安心も、楽しみも、愛も、ゆっくりと握れるのかもしれないですね。