次は戦場で会いましょう

かんがえたことを書き記す。

おくる言葉を、選ぶこと

前回の記事はこちら。
https://musicbell17.hatenablog.com/entry/2019/05/09/223038


暖かい紅茶の湯気が、食べ終わったハンバーグのカロリーを沈めるようにゆっくりと上っていました。おいしかったですね、と当たり障りのない会話を交わした後に、彼氏さんがぽつりと。


「ひおりちゃんって、他の人とは違うよね」
「? いつも変なことしてる自覚はありますけど……」


※この直前紅茶のポットで火傷しそうになってました


「えっと……そうじゃなくて、なんて言えば良いんだろ」


俯きながら、ちらちらと様子をうかがうように見つめる彼氏さん。「シャイ」をそのまま形にしたような仕草をするときは大抵言いたいことがある時なので、わたしも心当たりを探ってみることにしました。


「何かありましたっけ、さっきの話の続きですか?」
「うん……その……。……ひおりちゃんが見てる世界って綺麗なんだろうなあって思って」
「へ」


どんな口説き文句やねんとわたしの顔から火が出そうになってる間も、彼氏さんはうーんとマイペースに言葉を探していました。


「普通人間って年を取ると、その……見方が変わるっていうか、曲がる?っていうか……歪んだ見方になっちゃうところがあると思うんだよね」
「それは、そう……なんですかね」


何気ない一言が、受け手によっては悪意に満ちたものになったりすることは、往々にしてよくあります。純粋な親切心も、誰かの見方によっては「おせっかい」であるように。


「でもひおりちゃんは、そのままを見てるなーって。さっきの僕の話も、一緒に考えてくれて……。あ、でも、そのままを見すぎっていうのもあるけど。良いところなんだけど、それでひおりちゃんが損をしたら駄目だからね」
「うーん、そこのところ、自覚はあんまりないんですけど……」


自分の視点というものは自分にしか分からないようで、実は他人の目を通して初めて分かるものなのかもしれません。しっくり来ていないわたしに、彼氏さんは例えば、話を続けました。


「Nさん(※共通の上司)とかは、こう……悪く言う訳じゃないんだけど…………あの人は、ずる賢いって言ったら悪いかな……。こう……戦略的っていうか……」
「あ、それは二人で話したときに分かりますよね。わたしも、あの人は世の中のよけ方をよく知ってる人っていう印象です。中間管理職ですしね」
「うん。でもその、戦略的なところが、結構見方を歪めちゃう……うーん、なんて言ったら良いんだろ」


おどおどしている彼氏さんは、今ここにいないはずの上司にも気を遣っているようでした。


「大丈夫ですよ、彼氏さんが思ってることを言ってください」
「うん、でも、ちょっと違う気がして……何が言いたいのか分かんなくなってきた……」
「難しいですね」


彼氏さんを見ていると、改めて、言葉を選ぶということの難しさを感じます。
誰にも使えるような言葉を使って話すのは便利だけど、本当に胸に秘めた思いというものは、これほどまで悩み抜いて、初めて意味のあるものになるのかもしれません。
言い表せない感触が自分の中にあるとしても、今感じていることに一番近い言葉を選ぶ。それこそが「自分を表す」ということの近道になるのでしょうか。
同時に、その選択に妥協をしない彼氏さんの様子は、言葉へのこだわりがある好母ひおりとしては、かなり好感を持てる一面でした。


「さっきの話、もし、僕が話すのが苦手ってことを100人の人に話したとしたら、80人は、ふーん、そうなんだで終わると思ってて」
「はい」
「20人は、こうしたらどう?ってアドバイスを入れてくる」
「なるほど」
「で、ひおりちゃんはそれともちょっと違って……」
「あれ、違うんですか?」


昨日の記事を読んでいただければ分かりますが、わたしが彼氏さんにしたことは、今話に出てたようなアドバイスでした。
けれど、彼氏さんはわたしの疑問に強くうなずきました。


「うん、違うよ」


その違いが気になるところですが、これもまた深く長いので、次回に続きます。


ここまでお読みいただきありがとうございました。
言葉を選ぶのに時間を使えることは、人間ならではのぜいたくですよね。